「今期、うちは利益が出ているのか」——この問いに、毎月即答できる社長は、中小企業の中では多くありません。
これは珍しいことではないし、社長の責任感がないわけでもありません。中小企業の経営現場では、損益をリアルタイムで自分でつかむための仕組みが整っていないケースが多いのです。
1. 損益把握は、一義的に社長の仕事です
まず、原則を確認しておきます。
自社の損益を把握する責任は、税理士でも経理担当者でもなく、社長自身にあります。これは経営の基本です。
「税理士に任せているから大丈夫」は、税務申告を任せているという意味では正しい。でも、毎月の経営判断に使える損益を把握する責任まで税理士に預けることはできません。
これは税理士の質の問題ではなく、役割の構造上の問題です。
2. なぜ、多くの中小企業で機能していないのか
損益把握が社長の仕事だとわかっていても、実際には機能しないケースが多い。なぜでしょうか。
試算表が届くのが遅すぎる
多くの中小企業では、月次の試算表が翌月末や翌々月になって届きます。3月の数字が5月にわかっても、経営判断には使えません。売上が立ったとき、費用が発生したとき、その場で数字を見られなければ、社長は「感覚」で動くしかありません。
数字が「経営判断に使える形」になっていない
試算表が届いても、それが会社全体の合計値だけであれば、社長が知りたい情報とずれることがあります。
「どの案件で利益が出ているか」「どの部門がコストを押し上げているか」「今月、本当に手元に残るお金はいくらか」——これらは試算表の合計値からはすぐに読み取れません。
固定費と変動費が混在していて見えにくい
売上が上がったのに利益が出ない、または下がっている——そういうとき、原因を特定するには費用を構造的に見る必要があります。どこが固定費でどこが変動費か、どのコストが売上に連動しているかが整理されていないと、数字を見ても判断できません。
現場別・案件別の損益が見えていない
建設業・工務店・製造業など、複数の現場や案件を同時に動かしている会社では特にこの問題が起きます。全体の利益率はなんとなく把握できても、「どの現場が稼いでいて、どの現場が足を引っ張っているか」がわからない。
3. 損益が見えないと、何が起きるか
「なんとなく回っている」という感覚で経営している間は、問題が見えません。しかし数字が見えていない状態は、いくつかのリスクを静かに積み上げています。
- 採用したいが、今の利益水準で人件費を増やしていいか判断できない
- 設備投資の話が来たが、余裕があるのかどうか自信がない
- 売上は前年より増えているのに、なぜか手元が苦しくなっている
- 銀行から追加資料を求められたが、何を出せばいいかわからない
- 決算が終わるまで今期の利益がわからない
これらは「損益が見えていない」ことで起きる、典型的な状態です。
4. 見える状態を作るために必要なこと
損益を毎月自分でつかめる状態にするには、仕組みが必要です。以下の3点が最低限の土台になります。
① 月次の数字を翌月中旬までに出す
遅くとも翌月の半ば。これが損益把握を経営に使えるギリギリのタイミングです。そのためには、日々の記帳・仕訳を溜めないことと、月末処理のルーチンが整っている必要があります。
② 粗利を見る習慣を作る
売上だけ見ていても利益はわかりません。売上から材料費・外注費・仕入れを引いた粗利(粗利益)を毎月確認することが、損益把握の出発点です。粗利率が下がっているなら何かが変わっている。それに気づけるかどうかが、経営判断の質を分けます。
③ 「損益」と「現金」は別物だと理解する
損益計算書で利益が出ていても、手元の現金が減ることがあります。売掛金の回収が遅い、借入返済が出ていく、設備投資をした——これらは損益に出てこないか、時期がずれます。損益が見えた次のステップとして、現金の動きも合わせて確認する必要があります。
5. 「見えていない」に気づくのが第一歩です
損益を自分でつかめていない、という状態に気づいている社長は、実はすでに動き出せる位置にいます。
気づいていない社長より、気づいている社長の方が圧倒的に改善が早い。
問題は、気づいていても「何から手をつければいいかわからない」「誰に相談すればいいかわからない」という状態が続くことです。
試算表はあるか。どのくらい遅れているか。現場別の粗利は見えているか。借入返済後に残るお金は把握しているか。
ここを一緒に整理することが、損益と資金繰りが見える状態への第一歩になります。
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